前回まで書いてきた各種の不正において、毎月、毎年の報告はどうあるべきだったのか。
前回の復習も兼ねて、再度書かせていただきます。
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まず、海外子会社の管理を担当する方々の目が節穴では困ります。
子会社に悪意がある者がいたら・・・悪意はないが誤った認識に気づかず独りよがりに進めてしまう者がいたら・・・
いろいろと想像しなければなりません。
性悪説で見れば十分ということではありませんし、もちろん性善説で見るのは(管理業務として)意味がありません。性悪説も性善説もある種のバイアスです。
管理業務は、現場・状況をしっかり把握していることに尽きるのではないでしょうか。
「ベトナムだからこういうこともあるのかな」とか、「子会社の職員がここまで言うのだから」とか、そのような理解は曖昧であり、しっかり把握しているということにはなりません。
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不正の兆しを見つける
海外子会社の管理(ベトナム編)04であげた「1、関連者の設計施工会社の利用」「2、関連者の機械メンテナンス会社・建設コンサル会社の利用」については、以下のようなタスクになるでしょう。
- 設計施工、修繕、機械設備メンテナンスなどの費用を洗い出して、単年度で取引先・金額のパラメーターで整理後、最低3年程度さかのぼる。
- 目立つ取引から契約書(契約内容と金額)をチェックする。内容(項目)ごとに金額が妥当であるか判断できるといい。
- 複数取引のある取引先は関連者に該当しないかチェックする。
これらは子会社の会計担当者に指示するのではなく、管理側で行うべきことです。
そのためには、毎月確実に、仕訳帳、総勘定元帳を送らせておき、必要に応じて該当取引の契約書データと共に更なる補助簿を要求します。総勘定元帳(General Ledger)は科目ごとにエクセルシートで分けさせておくと作業がしやすいです(エクセルの1シートにまとめる人、科目ごとにPDFで提出する人など様々です)。
その際、調査の目的を覚られないための(コミュニケーションの)工夫ができるとベターです(詳しくはお問い合わせください)。
入出金の記載内容がアバウトな会計担当者も多いので、誰に何を払ったか・どの契約書に基づくかなど普段から記載にかかる具体的な要求をしておくことも大切です(帳簿及び銀行振込時)。
修繕やメンテナンスは、実際には何もしていない架空取引があるかもしれません。
ベトナムでは、作業完了後に完了報告書や議事録のような書類に署名捺印するのが一般的ですので、それを見れば何名の作業員がどの程度の日数で何をやったかわかるはずですし、その内容が疑わしい場合には、いずれ他の社員に聞き取りを行えば実態が見えますし、工場であれば出入口警備員の記録やビデオ記録を確認することもできるでしょう。
海外子会社の管理(ベトナム編)04であげた「4、関連者への製造・加工委託」については、上記のほか以下のようなタスクが加わるでしょう。
- 委託する必要があったのか明確にする。製品ごとの製造・加工工程を整理し、それぞれの過程で必要な機械設備・人員・技術などの定義を見直す。
- 疑わしい場合、委託先が単に保管だけ行っているのにあたかも作業を行っているようにしていないか、入出庫伝票と運送伝票を照合する。輸出加工企業であれば、税関にどのような報告を行ったかも照合する。
- 同時に、原材料・付属品や仕掛品の月次の棚卸報告が適時だったか、会計担当者が実地確認していたかを確認する。海外子会社の管理(ベトナム編)05で紹介したケースでは、数年にわたり、原材料・付属品、仕掛品、機械設備が「全く不正確」でした。
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不正を見つけ出したときの初動
不正を行ったのが社員であれば、いかに懲戒処分とするか、懲戒処分とはせずとも業務改善を求めるか、或いは自主退職に導くか・・・
これらは子会社代表者の業務であり、これは就業規則、労使協定などの状況からベトナム労働法に基づいて処理していくべきことです(上記の「不正の兆しを見つける」を子会社代表者の業務と考えるのは、親会社が海外子会社の管理をしないということになるでしょう)。
損害の回復を行わねばならない状況においては、民事訴訟(仲裁含む)或いは刑事事件化の可否を検討し、加害者とどのように接していくかという手順を決めていかねばなりません。
本稿では不正を行っているのが子会社の社員ではなく、子会社の代表者であるケースを想定して、その取り組み方を考察します。すなわち、子会社を支配されてしまっている状況から、そのコントロールボードを握り返すことを想定した初動を考察します。
- 代表者を変えなければならない
- 社判を取り戻す或いは無効にしなければならない、新たな社判も作成しなければならない
- 銀行取引の権限をこちらサイドに移行しなければならない
- これらの動きによる顧客への影響、仕入先への影響、従業員への影響、現在進んでいる作業への影響、その他ステークホルダーへの影響などをマネージして抑えなければならない
- 加害者に対してその事実・こちらサイドの見解を告知しなければならない
- 社内及び社外に対して正式に経営陣の変更と今後の方針を示さねばならない(公開会社であれば危機管理広報を含む)
1.の代表者変更については、主な会社形態(一名有限責任会社・二名以上有限責任会社・株式会社)によってその対策は異なりますが、いきなり加害者を代表者からおろしてしまうと、責任は免除されたと考えて全てを放棄されるかもしれませんし、場合によっては不当な降格(懲戒処分)を受けたなどとして労働訴訟にされるかもしれません。したがって、新たな代表者を加えて権限を振り分けることを考えます。これには定款を整備しなおし現代表者の署名と社判がない中で企業登記変更手続きを進めることが必要です。
2. 3. の社判確保と銀行権限確保については、法務テクニック・迅速な動きに加えて各所との調整力が必要です。社判は○○であるべき、現代表者の署名があるべき・・・いろいろな方がその方にとっての正論を言います。ベトナムの法務実務はこれらが全てではありませんので、どのような法令の根拠があるかを添えてしっかりした書面を用意し、特に銀行担当者が上司の理解を速やかに得られるようなフォローを行うことが重要です。また、銀行の企業アカウントは一般的に2名の担当者が登録されており、一人は代表者、一人は会計担当者です。代表者アカウントは承認権限はあっても出金指示権限はありませんので、会計担当者のアカウントを確保或いは停止できればとりあえずの不正出金は防ぐことができるという観点も覚えておくといいかもしれません。
4. 6. のステークホルダー全把握、どのような行動を取るか・・・これは最も重要なことです。入念な計画を練り、確実な 1. 2. 3. の遂行を前提にした初動を取らねばなりません。
5. の加害者への告知・・・これは筆者はXデイ(エックスデイ)と呼んでいます。加害者にとっては突然の出来事になるはずですので、こちらサイドの提示する事実に対しては正当化や開き直りに終始するケースが多く、Xデイで加害者が事実を認めること、謝罪すること、今後の対応策を協議することなどを期待することはできません。むしろその後は弁護士が入って当該加害者の権利のみ主張し、攻撃的に訴訟を仕掛けてくるケースもあります。そうでなくても、加害者の証拠隠滅や社員への扇動などを防ぐために現場を掌握しなければならず、これには加害者の出勤停止や鍵類の確保、その後の解雇などを対応していかねばなりません。すなわち、Xデイ後、約何日後に訴訟が仕掛けられるかを想定し、こちら側の体制も準備しておかねばなりません(筆者の経験上、ベトナムではXデイ後早ければ数日後に訴訟予告と訴状副本が届き、2か月後に裁判所からの受理通知が届くでしょう)。
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今回はここまでにさせていただきます。
次回以降、不正の温床となった企業のその後のあり方(企業内部、加害者に対して、刑事事件に対して、民事訴訟に対して、税務署に対して、税関に対して・・・)について紹介させていただく予定です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
