不正の温床となった企業は、その後どうあるべきか、考察します。
大企業であれば外部専門家と協力して対策チームを立てることになりますが、原則として少数の担当者で諸々の対応を行っていくのが良いでしょう(不正対策チーム)。
監査役や監査委員会がない場合には、これらを設置するのが社内外ともにわかりやすいものです。2020年に施行された現行企業法では、有限責任会社における監査役の資格や権利義務などが明示されていませんので、必要に応じて定款や社員総会決定などで補足することができます。
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従業員への対応
不安を払拭し、新たな組織としての推進力、リーダーへの求心力を高めなければなりません。
- ステークホルダーとしてしっかり説明を行う必要があります。現状の認識、これからのビジョンを誰にでもわかりやすく説明します。
- 部署の長から始め、徐々に末端まで一人一人面接を行っていく必要があります。
- 加害者も含めたSNSグループ(Zalo, LINEなども)を把握し、加害者と従業員を遮断する必要があります。
- 加害者の関係者が残っている場合がありますので、把握する必要があります。
これらは人事デューデリジェンスのような業務ですが、不適切な指示系統や報告系統を改めなければなりませんので、財務デューデリジェンスに近いと言えます。
また、外部からの連絡(特に郵便物)について、不正対策チームに集約し、加害者からの文書や裁判所からの通知などを従業員の目に触れないように工夫すべきでしょう。
メールを使う従業員であれば、加害者メールアドレスを指定した受信制限や、キーワードを指定した受信制限なども一手です。
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加害者への対応
不正の事実を告げるXデイの翌日から体調不良を訴え、用意周到な診断書を添えて欠勤するケースもあれば、堂々と出社するケースもあるかもしれません。
業務にかかる情報が埋もれないようにメールアドレスを監視あるいは(複製の)転送したほうがいいでしょう。
出社をさせず自宅待機(あるいは自宅業務)にするケース、雇用者から何ら通知をせずに解雇できるケース、一定の期間をもって通知をすれば解雇できるケース、規律処分を行って解雇できるケースなど、ケースバイケースで対応を行うことになります。
加害者のメールアドレスや業務上のデータが外部からアクセスできるようになっている場合には制限をかけなければなりません。
なお、加害者の署名が必要な外部手続きがある場合には、Xデイより前に手を打っておかねばなりません(※詳しくはお問い合わせください)。
従業員や従業員の家族にアプローチしてくることも多々あり、やんわりと内部情報を聞き出してくるだけのケースもあれば、退職などを脅迫するケースもありますので、社内にホウレンソウルールが行き届いていない場合などは、しっかり遮断する手立てを取る方が安全です。
過去、内装業を営む日系の会社で全社員が退職することになったケースや、日本人社長のアシスタントをやっている通訳の家族に脅迫してきたケース、事件の証言者や弁護士の家族を脅迫してきたケースなど・・・日本人が 「そんなこと起きないだろう」 と思うことは、たいてい、「(日本であれば)警察が動いてくれそうだから」 というバイアスがあり、ベトナムではそうなりません。
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刑事事件を進めること
企業として告訴・告発を行うということは、処罰感情ということよりも、こちらからの民事訴訟を有利に進めるためだったり、相手方からの民事訴訟を防ぐためだったり、周囲に対しての自社の正当性を示すことであったり、何か戦略があるのではないでしょうか。
ベトナムで刑事事件が進む場合は、罰金や懲役などの処罰が下るだけでなく、被害を受けた金銭の回収まで行われますので、日本での戦略とは違ってくるでしょう。余談ですが、日本のような「詐欺罪」はありません。
告訴状あるいは告発状には被害金額など詳細に書く必要がありますし(担当公安が異なります)、証拠も詳細に揃える必要があります。
窓口に提出する場合には、その当番の方にまず 「サマリー」 を説明しなければなりません。
この方が法律の専門家というわけではありませんし、スマホをいじりながらですし、他の方々が横から話しかけてきたらそっちに対応しますし、告訴状あるいは告発状の提出者は並ばずに横から入ってきますし・・・それなりの(ベトナム語での)テクニック?が必要です。
そして、運が良ければその場で事件部署に回され担当者まで決まりますが、通常は数日後に事件部署に回され、担当者が決まるまで数か月かかる場合もあります。(ベトナム)刑事訴訟法でのこのあたりのスケジュール感は最大2か月程度ですが、たいていは、何か月経っても何も進まないでしょう。
今やベトナムで完全に定着した 「過去日付での書面発行」 は、法人登記やライセンス取得、税務署などの手続き局面だけではなく、公安も裁判所も常套手段なのです。
したがって、こまめに且ついろいろな角度からアプローチしなければなりませんし、袖の下がないと進まない・・・と言う人ばかりになります(袖の下なくても進みます)。
受理されないケースは不受理という決定が出るはずですが、不受理という決定が出ないまま宙ぶらりんになるケースもあります。不受理という決定が出ても、検察に持ち込んで受理されたケースもありました(10年以上前の不動産投資詐欺)。
晴れて受理されてからは捜査が始まりますが、加害者は逮捕・拘留されるわけではなく、呼び出されて取り調べを受けます。昨年に関係した案件では、国外との往来にも制限がありませんでした。
被害者も呼び出されて取り調べを受けます。被害を受けた企業の従業員であるにかかわらず加害者の共犯者ではないかと疑われ(自白を強要され)2時間以上も拘束されて泣いて返ってくるケースのほか、筆者が被害を受けた企業の監査役として取り調べに協力したケースでは、肌が触れるくらいの隣席に手錠をかけられたベトナム人が2名おり、捜査員と大声で言い合いをしている中で、別室での取り調べを要望しても聞き入れられず、そもそも通訳を置くことが許されず、訛りの強いベトナム西部出身の捜査員に付き合わされました。
統計情報は調べていませんが、持ち込まれる事件の数に比べて捜査員の数が非常に少ないと聞いていますので(ベトナムはどこの諸官庁もそうです)、初期捜査が属人化しているのでしょう。そもそもベトナム人のチームプレーは、一人が全て確認してからもう一人が全て確認し直す(あるいは何も確認しない)・・・という電池の直列繋ぎのような時間の使い方が多いです。
なお、刑事事件の調書に限らず、議事録などを手書きで作成した場合、日本人にはほぼ読めません。私もどれだけ経験を積んでも手書きのベトナム語だけは確認に時間がかかります。
当事者が外資を有する企業だったり、その担当者が外国人であったり・・・外国要素を含む事件は、民事訴訟のみならず刑事事件でも取り扱いの条件があり、それが原因でデッドロックのような状況になるケースもあります。刑事訴訟法に定められた暫定停止という処理なのですが、捜査員の胸先三寸(2行程度の書面)でできてしまうこと、暫定停止の解除期限が定められていないことから、デッドロックになってしまいます。捜査員に対する苦情を各所に提出したこともありますが、たらい回しにされてしまいました。
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今回はここまでにさせていただきます。
次回は、民事訴訟に対して、税務署に対して、税関に対して・・・について紹介させていただく予定です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
