いつもお読みいただきありがとうございます。先月6月半ばに2020年企業法と投資法の新法(改正法ではありません)が可決されました。しかし、6月は最終草案バージョンが出回っており、7月に入って正式バージョンを確認したところ、相違点が多々ありました。
7月は、各社様々にレビューに取り組んでいることと推察しますが、2021年1月の施行までには、多くの日本語情報が出そろっていくものと思料します。
今回は、監査役、監査役会の役割が変更されたことについて紹介します。
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1名有限責任会社における監査役・監査役会
2014年企業法 | 2020年企業法 |
組織が所有する場合の機関設計は、次のいずれかとなる(第78条・第79条)。
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(変更)組織が所有する場合の機関設計は、次のいずれかとなる(第79条)。
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(削除)監査役の条件として、専門性は必要とされるが、資格は要件とされない(第82条)。監査役を外部的に登記する規定はない。 |
以上より、1名有限責任会社における監査役の設置がなくなりました。
ただし、所有者が国家資本に関連する場合は監査役会が必要となります(2020年企業法の第79条)
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2名以上有限責任会社における監査役・監査役会
2014年企業法 | 2020年企業法 |
(削除)11 名以上の社員を有する有限責任会社は、監査役会を設置しなければならない。社員が11 名未満の場合でも状況に応じて監査役会を設置することができる。但し、監査役会や監査役会長の権利、義務、資格、条件、業務体制などは、会社の定款にて定める(第55条)。 | (追加)国家資本が入っているケースには監査役会を設置しなければならない(第56条)。
(追加)監査役、監査役会の規定(第65条)。 |
新法の第65条における監査役や監査役会の規定は、第56条の国家資本が入っているケースに限定され、2014年法のように自由に監査役会を設置できるという意味ではないと考えられます。
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株式会社における監査役・監査役会
2014年企業法 | 2020年企業法 |
機関設計は次のいずれかとなる(第134条)。
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特に変わらず(独立取締役および内部会計監査委員会の但し書きに少しの変更あり)。 |
監査役会は3名から5名とし、任期は5年以内で再任は制限なく可能である。監査役会長は、会計人や監査人または更に高等な基準を満たす者ではなくてはならず、会社の専任でなくてはならない。監査役メンバーの過半数はベトナムに常駐していなくてはならない(第163条)。
(削除)上場株式会社や国が定款資本の50%超を保有している会社の監査役は、会計人や監査人でなくてはならない(第164条2項)。 |
(変更)監査役会は3名から5名とし、任期は5年以内で再任は制限なく可能である。監査役会長は、経済、金融、会計、監査、法律、経営管理、または会社の活動する専門分野のいずれかの専攻にて大卒以上の者または更に高等な基準を満たす者でなくてはならない。監査役メンバーの過半数はベトナムに常駐していなくてはならない(第168条)。
(追加)監査役は、経済、金融、会計、監査、法律、経営管理、または会社の活動する専門分野に見合ったトレーニングを受けている者である(第169条1項b号)。 == 以上のほか、上場会社や国家資本を有する会社の監査役が、関係者や家族であってはならないことが詳細に規定された。 |
ベトナムでは有限責任会社が圧倒的に多く、3者以上の出資者を必要とする株式会社はまだまだ一部ですが、監査役会についての変更は、かなり現実的で運営しやすいものになったのではないでしょうか。
例えば、監査役会の長が会社への専任者でなければならないこと、さらに、会計人や監査人といった語句が、ベトナムの正式な会計資格である「会計人」「監査人」であると解釈されたことから、監査役会の長を務める人材の手配は、それなりに難易度が高いものでした。
しかし、新法では、監査役会の長の専門性は大学の専攻による証明で良しとされ、且つ専任である必要はなくなりました。一方で、監査役に対する専門性も(緩やかではありますが)定められました。
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2020年企業法は2021年1月1日施行です。
以前より、不透明であった1名有限責任会社の監査役が廃止されたことは朗報ではないでしょうか。そして、株式会社における監査役会もより運営しやすくなり、弊社のような外部会社でも支援しやすくなったと言えるでしょう。
2020年、2021年は重要法律のメジャーチェンジの時期です。2021年1月1日施行は、企業法、投資法のほか、労働法などもございます。本年後半に向けて、定款の見直しや各種規程の再整備、労働関係書式の見直しなどされてはいかがでしょうか。