いつもお読みいただきありがとうございます。現地法人の設立前経費を親会社が立て替え、後から子会社に付け替えることは可能ですが、現地法人を設立し稼働してから親会社が費用を立て替える場合はどうでしょうか。
弊社119号レターの最後で触れた「貸付や増資を検討したいのだけど稟議に時間がかかるので、まずは立替で処理したい」といったようなケースです。
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4つの条件
法人税法上の3つの条件と企業法上の1つの条件を満たせば、親会社による立替であっても第三者による立替であっても、費用は損金算入が可能で、付加価値税の控除も可能となります。
- 現地法人の事業に関連性があること。
- 法定のインボイスや証憑があること。
- 1回につき2,000万ドン(税込)以上の支払の場合には非現金決済(銀行振込など)に拠らねばならないこと。
- 立替払いする者とされる者との立替合意書。
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立替費用の返金がベトナムから日本への送金になる場合
- 上記の4つの条件とは別問題です。銀行ごとの内規もありますので、基本的にハードルが高い作業です。
- 例えば、「現地法人を設立する前の費用」の立替について、2019年9月5日までは、日本の親会社が日本にある銀行口座よりベトナム現地法人のための費用を立て替えて、ベトナムのサプライヤーなどに送金した場合には、これを国際貸付の元本とはできませんでした(立替送金元の規制)。すなわち、親会社がベトナムに非居住者口座を開設し、そこからベトナム現地法人のために費用の立替支払を行うことが必要とされました(中央銀行通達19/2014/TT-NHNN)。
- 2019年9月6日からは、立替送金元の規制は排除され(中央銀行通達06/2019/TT-NHNN)、日本の親会社が日本にある銀行口座よりベトナムのサプライヤーなどに送金した場合でも、国際貸付の元本として処理できるようになりました。ただ、日本への送金時の実務は銀行ごとに異なるので、依然として注意が必要なことに変わりはありません。
- 一方で「現地法人が稼働してからの費用」の立替については、送金元規制の有無が明確になっていません。各銀行は、電話ヒアリング程度だとなかなか明確に答えていただけない印象があります。A銀行では大丈夫でB銀行ではダメだったということもありました。中央銀行や税務局については、弊社ヒアリングによれば「貸付金化」をすれば問題ないとの見解でした。
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その他の実務上の留意点
- 前記のような(ベトナムから日本への)送金事情もあり、ベトナム現地法人が必要な経費を日本の親会社が立替金として支払い、その後に貸付金に変更し、後に増資資本としても検討していくことは、ベトナムから日本への送金を発生させないスキームとなります。
- この場合、立替金を貸付金に変更するための合意書類などを揃え、会計処理を行います。その後、1年を超える前に、長期貸付とするか増資資本に振り替えるかを検討します。一般的に、事業利益があがり利益剰余金が発生するようであれば、増資にする必要はないでしょう。
- なお、長期貸付とする場合には、中央銀行へ登録しますので、投資ライセンス(IRC)に調達資本枠がない場合にはIRC調整を先に行います。1か月もかかりません。増資資本に振り替える場合には、有限責任会社、株式会社によってもやり方は異なりますので、実行の半年前程度より準備されることをお勧めします。
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ベトナムは、不便なことが多くあります。しかし、これは日本勢にとって、ということではありません。多くの場合において、法律が未整備なのか、当局の担当や業務の担当が情報網羅しきれていないのか、なかなか見えにくいと思いますが、何事も必ずや「可」であるのか「不可」であるのかの解はあり、これについて妥当な進め方があるはずですので、粘り強く実務に向かうことが必要です。