いつもお読みいただきありがとうございます。ベトナムへの参入において、現地法人設立ではなく既存のベトナム企業の持分や株式を買い取って参入するケースが増えていると感じます。いわゆるM&Aです。現地法人設立ではその大半の事例が有限責任会社にて進められますが、M&Aでは株式会社の事例を多く見かけます。
株式会社の取締役会メンバーは、ワークパーミット免除の対象(2012年労働法の第172条、2019年労働法の第154条)で、且つ雇用契約書がなくてもベトナムにおける所得を得られます。
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取締役会メンバーに対する報酬の決定(2014年企業法158条、2020年企業法163条)
- 取締役の報酬は、業務報酬、賞与、業務にかかる各種支出(飲食、宿泊、移動など)が認められます。
- このうち業務報酬は、取締役会の総意によって見積もられた取締役それぞれの日当報酬額に基づき、取締役がその任務を遂行するために必要な日数に掛け合わせて算出します。取締役会の報酬総額は、株主総会が年次総会にて決定します。
- 社長または総社長の給与及び賞与は、取締役会の決定事項です。
- 上記3点は、定款に異なる定めを行った場合、変更が可能です。
以上が法律に定められた内容です。
これについて実務としては、取締役会や株主総会における決定書が必要です。日本において役員報酬について取締役会議事録を残すことと同じです。
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取締役会メンバーに対する報酬の会計税務
- 会計や法人税の観点からは、取締役、社長や総社長にかかる上記のような報酬は、年次の決算書において独立した項目に仕訳し、株主総会の年次総会にて報告されなければなりません(決算書の承認)。
- 個人所得税の観点からは、雇用契約書を締結するケースと締結しないケースに分かれます(税務局によって雇用契約書を締結するケースを想定していない場合もありました)。雇用契約書を締結しないケースは、取締役会報酬や監査役会報酬などの「居住者であって雇用契約書に伴わない所得または3か月に満たない雇用契約書に伴う所得で200万ドン以上の所得」として、一律10%の源泉徴収を行います。
- 一方で、労働契約書(3か月以上)を締結するケースでは、通常の累進税率に従って税率が適用されます。基礎控除のほか扶養控除などの適用、社会保険の適用などが可能となります。累進税率は、月間所得1,000万ドン(約5万円)までが10%ですので、月間1,000万ドンを超える報酬を得る場合には、雇用契約書を締結しない方が税額が低くなる可能性が高くなります。
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ベトナムの企業法、法人税法、個人所得税法、付加価値税法などを全て理解し、100%正しい企業経営をしていくことは、非常に難儀なことです。私たち日本人にとってはまず、言語が難しく、ニュース情報などが自然に耳に入ってくるわけではないので、ベトナムにとって当たり前の基準でも非常に「つかみにくい」ということがありますが、ベトナム人だからといってそれぞれ全てを正確に網羅している人は珍しく、通常は「聞き合いながら」「その都度で調べながら」進めています。
弊社のようなコンサルティング会社がこのような言い訳をしてはならないとは思いますが、例えば、企業法における株式会社の機関設計は、実務に落としていくと非常に自由度が高く、いろいろなパターンがあり、税務上で一切の指摘を受けないような「正しさ」を求めるとなるとややこしくなっていきます。
まずはシンプルな機関設計で法務、会計税務の双方を固めつつ、徐々に自社のやり方を作っていくような形が望ましいかもしれません。