Covid-19の影響もあり、ベトナムの各種手続きの電子化が急ピッチで進んでいます。ベトナムの新たな制度や手順の整備は、時に非常に速く、現場実務が追い付いていかないということが見られます。
本レターでは、2015年より試験稼働、2018年より一部稼働、本年2020年11月1日より全面稼働となる「電子インボイス」について、整理させていただきます。
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「インボイス」とは何か、「領収書」とは違うのか
- ベトナムのみならず、一般的に、インボイスは領収書とは違います。インボイスには領収書の機能がありますが、インボイスとは、「誰が」「いつ」「何を」「誰に対して」「税率●%で」「いくらで」商品販売したのか、サービス提供したのかを表現する明細票をいいます。通し番号も入ります。
- 領収書は、一般的に、自社にて発行や使用の管理が可能ですが、インボイスは制度や方式として採用されている場合、税当局などによって発行や使用が管理されることになります。
- ベトナムはインボイス制度(インボイス方式)を採用しており、日本でも2023年から採用されるようです。
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レッドインボイスから電子インボイスへ
- これまでの紙のインボイスはレッドインボイス(付加価値税インボイス)と呼ばれてきました。今後、一部のケースを除き、全て電子インボイスへと変更されます。
- 何が異なるかというと、利便性の点からは、郵送の手間が減ること、データ管理できることなどが挙げられます。修正する際のルールなども簡素化されるため、実務負担が減ると言えましょう。例えば、ECサイトなどでは、自動で発行してくれるソフト(プラグインやアドオン)も既に普及しています。
- しかし、発行日付が紙の場合とは異なり、記帳(会計ソフトへの入力タイミングなど)や税務が異なってくるなど、今までの社内オペレーションとは異なってくるかもしれません。
- また、電子化に際する一定のリテラシーが必要になるでしょう。ソフトウェアの使用法を始め、電子インボイスをメール経由で受け取る際に、悪意ある攻撃者からのスパムメールなどを誤って開かないようセキュリティー上の対策が必要になるでしょう。
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インボイスは付加価値税インボイスだけではない(政令119/2018/ND-CPの第5条など)
- 冒頭にも書いたようにインボイスと領収書は同義語ではありません。インボイスは主に法人税および付加価値税の税務において使用されますが、付加価値税の申告方式には直接式と控除式の2種類があり、直接式の場合には付加価値税インボイスは発行されず、売上インボイス(通常販売インボイス=貿易時の商業インボイス等と同様)のみが発行されます。
- 多くの日系企業の付加価値税の申告形式は控除式だと思いますが、ベトナム企業や自営業者には直接式を採用しているところも多く、直接式における売上インボイスは、付加価値税のインプット控除として使用できません。
- その他、以下のようなものも電子インボイスと呼ばれます。
電子的手段を用いたスタンプ・切手・チケット・カード・伝票・配送出荷請求票、その他電子インボイスの記載要件を満たす各種の電子証票。ただし、財務省の定める標準書式に準拠しているもの。
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電子インボイスに関する実務例
【複数品目がある場合の電子インボイスへの表記法】
一枚の電子インボイスへ多くの品目を書ききれず、添付表などへ詳細を記載するケースについて、2020年5月15日、ハノイ市税務局は、財務省通達32/2011/TT-BTCを引用し、「電子インボイスのルールに準拠していない」と回答しています。
【輸出商品または輸出サービスに対するインボイス】
輸出商品やサービスについて、現行法では、付加価値税インボイスを発行する義務はなく、商業インボイス(Commercial Invoice)にて対応します(財務省通達119/2014/TT-BTCなど)。これが今後は電子インボイス対応となり、ケースバイケースで付加価値税電子インボイスまたは売上電子インボイスとなるようです(財務省通達68/2019/TT-BTC)。
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弊社では2018年より電子インボイスと紙インボイスを併用してきました。紙インボイスは事務所に届くのに、電子インボイスは登録したメールアドレスに届くため、銀行、保険会社、税務署、大家さん、各取引先など弊社担当もばらばらになりがちで、対応が面倒に感じるときもあります。
スパムと思われる「電子領収書を添付します」(ベトナム語版や英語版などさまざま)という怪しいメールも増えたと思います。これは、電子化、テレワーク化、リモート化などに伴う各企業共通のセキュリティー課題でもあります。
余談ですが、弊社が徹底している社内セキュリティー基準を一つご紹介します。
- HTMLモードのメール受信ではなく、シンプルテキストモード(メールブラウザソフトによって呼び名が異なります)に設定します。ウェブメール(Gmailなど)ではなくメールソフトを使用するケースです。
- これで、詐欺リンクへの誘導などは全て目視で確認できるようになり、ネットやコンピューターのリテラシーが低い方でも意識が高まり、基本的知識が身についてスパム被害に遭う確率が非常に低くなります。
ただ、メールソフトを使用せず、ウェブメールに自社のメールドメインを設置したり、チャット機能なども付いたビジネスコミュニケーションソフトを導入する事例も多いと思います。