ベトナム企業の持分をもっている国外企業(非居住者)が、その持分を別の国外企業に譲渡する場合(資本取引)、その譲渡代金はどのように支払うのでしょうか。
一般的に、当局に資本取引の承認を得たあと、所有者変更手続きを行う前に譲渡代金の決済を行う必要がありますが、所有者変更手続きに時間を要した場合、または、万一の所有者変更手続きの不承認に備え、譲渡代金を一定期間、銀行口座に保全(エスクロー)する形にします。
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国外の銀行口座での資本取引はできるのか(2020年9月一部編集)
非居住者間での資本取引の決済は、現行企業法(2014年)では、現物資産を除き、非居住者である外国投資家がベトナムに開設した口座を経由して行わねばならないとありますが、2020年企業法では、外国為替にかかる法律の規定に基づいた口座を経由して行わねばならないとあります。
すなわち、「外国投資家の口座」である必要性や「ベトナムに開設した口座」である必要性については、企業法から規定が削除されたとも解釈できます(2019年9月より施行されている中央銀行通達06/2019/TT-NHNNにより、実務上、各所の認識の違いが発生していました)。
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国内の銀行口座での資本取引はどのようにするのか(2020年9月一部編集)
一般的には、ベトナム国内の銀行口座を経由した決済の流れを、譲渡契約(SPA)に具体的に表現することとなります(手続きや精算のイメージを具体的に書かず、取引の完了時点が不明確なSPAも見ますので注意が必要です)。
その際、経由するベトナム国内の銀行口座には、以下の2つのオプションがあります。
- 買い手又は売り手の口座(間接投資口座:IICA、又は非居住者口座)
- 対象企業の口座(直接投資口座:DICA)
ただし、非居住者同士以外の資本取引(居住者同士や居住者と非居住者の間での取引)では異なります。
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現行法令のわかりにくい部分
2019年9月より施行されている中央銀行通達06/2019/TT-NHNNは、以下のように規定されています。これは従来規定より改正された内容です。
「外国資本を有する企業の株式や持分の譲渡における決済は、次のような形式とする。(a) 非居住者同士または居住者同士での場合には、直接投資口座を通さない・・・」
ここで重要なのが「通さない」という表現です。
実務をやっている我々からすると、以前は「通すケース」があったため、「通さなくてよい」と解釈できるのですが、2019年9月以降、弊社が取り扱った非居住者同士でのM&A案件は、ほぼ全ての銀行担当者が「通すことはできない」と解釈していました。
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ベトナム大手銀行の正式回答と昨今の動向(2020年9月一部編集)
上記の論点について、弊社ではいくつかの大手銀行に書面による正式回答を依頼してきましたが、なかなか進行せず、2020年5月に、ようやく大手銀行の1つであるV銀行本店より、以下のような正式回答を書面にて得ました。
「外貨による資本取引またはベトナムドンによる資本取引に限り、直接投資口座(DICA)の使用は可能である。」
これによって、従来通り、既存のDICAを開設した銀行を含めた三者合意書を作成し、所有者変更手続きを進め、その後、譲渡代金を売り手にリリースするという手順が成り立つことになります(しかし、上記を前提に進めたM&A取引の実行段階になった2020年8月、同行は、上記見解を覆しました)。
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別件では、B銀行(及び日系銀行)で進めた非居住者及び居住者の案件で、上記の三者合意書に署名捺印したにかかわらず、その後、特に明確な理由なく、外国投資家の資金保全を拒否し、売り手に対して(所有者変更手続き完了前に)直接の支払いを進めました(SPAの規定とは異なります)。
弊社は、V銀行ともB銀行とも、過去何回もM&A取引についての業務履歴がありますが、担当者ごとに対応や処理が異なる事実があります。
先日、日系大手M銀行の担当弁護士であったベトナム人弁護士とこのあたりについて議論する機会があり、その中で、銀行担当者の自己判断で進めてしまうケースが多いとのことでした。
ベトナム国のM&Aは、当局の承認があって成り立つものです。資本取引の決済については、当局の(最終)手続き前に終わっていなければならないため、日本とは違う独自のワークフローが生まれます。しかし、商業銀行それぞれで違いが発生すると、ディールを全体として管理する側から見ると、思わぬ時間が取られてしまいます。
(2020年10月追記)V銀行は、その後、売り手の非居住者口座を提案し、B銀行は、買い手の非居住者口座を提案しています。日系のM銀行も買い手の非居住者口座を提案しています。その他2行は、2週間ほど経っても返信がありませんでした。なお、中央銀行の担当者は国外銀行で良いと回答しました(誤っています)。