2021年1月より施行される新労働法(2019年労働法)には、着目すべき点が多数あります。
今回は、被雇用者から一方的に雇用契約書を解除するケースについてご案内します。
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現行規定(2012年労働法第37条)
期限付き雇用契約、12 ヶ月未満の季節的な業務又は特定業務を履行するための雇用契約の下で就労する被雇用者は、以下の場合に、契約期間終了前における契約の一方的解除の権利を有する。
- 雇用契約で合意した業務や勤務地に配置されない。又は労働条件が保証されていない。
- 雇用契約に定められた給与が十分に支給されない。又は支給が遅延している。
- 虐待、セクシャルハラスメント、強制労働がある。
- 自身や家族が困苦な状況におり、契約履行の継続が不可能になる。
- 居住地の行政機関における専従職に選出される。又は国家機関の職務に任命される。
- 妊娠中の女性被雇用者が、認可済み医療機関の指示によって業務を休止しなければならない。
- 被雇用者が、期限付き雇用契約の場合は 90 日間において、12 ヶ月未満の季節的な業務又は特定業務を履行するための雇用契約の場合は契約期間の 4分の1の期間において、継続して治療を受けたにも関わらず、労働能力を回復できない。
上記の場合、期限付き雇用契約の場合には30日前までの事前通知、12か月未満の季節的な業務又は特定業務を履行するための雇用契約の場合には3営業日前までの事前通知があれば、雇用契約の一方的解除が可能です。
一方で、無期限の雇用契約の場合は、特定の場合を除き、上記のような理由がなくても45日前までに事前通知をすれば、雇用契約の一方的解除が可能です。
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新規定(2019年労働法第35条)
被雇用者は、雇用契約を一方的に解除する権利を有するが、雇用者に対し次のように事前通知しなければならない。
- 無期限の雇用契約の場合、45日前まで。
- 12か月から36か月までの期限付き雇用契約の場合、30日前まで。
- 12ヵ月未満の期限付き雇用契約の場合、3営業日前まで。
- 特定な業種や業務内容については、政府の規定に基づく事前通知期限を履行しなければならない。
次の場合には、被雇用者は、雇用者に対し事前通知を行うことなく雇用契約を一方的に解除する権利を有する。
- 雇用契約で合意した業務や勤務地に配置されない。又は労働条件が保証されていない。但し、本法第29条の規定に基づいた場合を除く。
- 雇用契約に定められた給与が十分に支給されない。又は支給が遅延している。但し、本法第97条4項の規定に基づいた場合を除く。
- 雇用者において、虐待、暴行、屈辱的な言動、健康や尊厳又は名誉に影響を及ぼす行為、強制労働がある。
- 職場において、セクシャルハラスメントがある。
- 妊娠中の女性被雇用者が、本法第138条1項の規定に基づいて、業務を休止しなければならない。
- 本法第169条の規定に基づく退職年齢に達した。但し、両当事者のその他の合意がある場合を除く。
- 雇用者が本法第16条1項に定められた情報を正確に提供せず、雇用契約の履行に影響を与える。
従来規定では、期限付き雇用契約の場合、特段の理由がない限り、被雇用者は、雇用契約の一方的解除をする権利を有しませんでしたが、新規定では、これを可能にしました。
また、事前告知が不要な場合として(いきなりの雇用契約解除・その場での雇用契約解除)、「屈辱的な言動、健康や尊厳又は名誉に影響を及ぼす行為」が新たに加わりました。これは、被雇用者の「受け取り方」によって、突発的な退職事例が発生するリスクとなるでしょう。
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被雇用者の一方的な雇用契約解除が不法である場合の罰則規定
2012年労働法の第43条、2019年労働法の第40条に該当しますが、特に変更はありません。
- 退職手当を受けることができない。
- 雇用者に対して雇用契約書における給与の2分の1に相当する賠償金、且つ事前通知の無かった日数に対する被雇用者の給与に相当する賠償金を支払わなければならない。
- 雇用者に対し、本法第 62 条で規定する研修費用を弁済しなければならない。
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上記した「屈辱的な言動、健康や尊厳又は名誉に影響を及ぼす行為」とはどのようなケースが考えられるでしょうか。
例えば、人前で叱られる、注意を受ける等が、名誉を傷つけられたと感じるケースも多いのではないでしょうか。
ある事例では、上司が退職予定社員(退職届を出している社員)について顧客に知らせ、新たな担当者を紹介したことについて、退職予定社員は「名誉を傷つけられた」として、雇用者にクレームを上げました。また、同僚に対してその上司の行為を非難し、顧客担当者にも個別連絡をしました。
ベトナム人は自らの意見を表現することについて(日本人に比べて)非常に積極的であり、日本人とは教育や文化の背景が違うことを実感する場面があります。自らの視点を調整することに長けている人もいます(日本で言えば、開き直ったり、他人事・第三者的な目線になったりするようなことです)。
雇用者としては、どのような退職のケースにおいても、どちらかが一方的な認識にならないような合意形成の努力が欠かせないでしょう。