いつもお読みいただきありがとうございます。今回は、日本の不正競争防止法にあたるベトナムの競争法(2018年法)と関連法令より、メーカーや元請会社における自社取引のチェックポイントを考察いたします。
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競争法の原則1:禁止される競争の制限協定(2018年競争法の第3章)
関連市場における事業者間で合意形成してはならない協定
- 直接間接を問わず、物品やサービスについての価格一定化
- 市場の顧客や需要、市場の仕入れやサービスなど供給リソースの分割
- 生産量や売買量、供給量の制限や統制
事業者間で合意形成してはならない協定
- 物品やサービスの提供にかかる入札における応札者に対する落札の斡旋
- 他の事業者の市場参入や競争を阻止したり妨害したりする制止行為
- 合意参加しない事業者を市場から排除するようあらかじめ取り決める行為
市場に一定の影響を与える又はその可能性があるために合意形成してはならない協定
- 技術や技術開発及び投資の制限
- 他の事業者との取引契約における条件や基準の強制、又は契約対象とは直接関係ない義務についての強制
- 合意参加しない事業者とは取引を行わない行為
- 合意参加しない事業者に、市場の需要や仕入れやサービスなど供給リソースを制限する行為
- その他、市場に一定の影響を与える又はその可能性がある行為
上記原則に基づき、場合によって国家競争委員会がその適用を判断し、かつ例外規定(免除規定)とその例外(免除)申請手続きがあります。なお、この「原則1」は、市場におけるマーケットシェア(市場占有率)は関係なく、どのような事業者も当てはまります(旧法では制限がありました)。市場の確定方法については詳細規定がありますが、ここでは割愛します。
したがって、メーカーや元請会社における自社取引のチェックポイントは、この「原則1」に抵触する可能性のある契約上の内容や表現となります。
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競争法の原則2:市場に対する支配的・独占的地位の濫用(2018年競争法の第4章)
市場に対する支配的地位とは以下の場合をいいます。
- 事業者が30%以上のマーケットシェアを有する場合
- 次のようなマーケットシェアを有する場合には、支配的地位を有する事業者グループと見なされます。ただし、10%未満のマーケットシェアである事業者は含みません。
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- 2つの事業者が計50%以上のマーケットシェアを有する場合
- 3つの事業者が計65%以上のマーケットシェアを有する場合
- 4つの事業者が計75%以上のマーケットシェアを有する場合
- 5つ以上の事業者が計85%以上のマーケットシェアを有する場合
- 事業者又は事業者グループに、次のいくつかの要素をもとにして一定の市場優位性が認められる場合
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- 関連市場における事業者間でのシェアの相関関係
- 事業者の財務力や規模
- 他の事業者に対する参入又は拡張の障壁
- 物品やサービスの流通、消費、供給に対する市場を掌握し、アプローチ、監督できる能力
- 技術や技術インフラに関する優位性
- インフラ基盤を所有、掌握、アクセスする権利
- 知的財産権対象を所有、使用する権利
- 供給リソースや需要を他の物品やサービスに置き換える能力
- 事業者が活動を行っている業種分野における特性的要素
市場に対する独占的地位とは以下の場合をいいます。
- 関連市場において、競争事業者が全くいない状況
市場に対する支配的地位、独占的地位を有する事業者や事業者グループは、他の競争相手に対して、排除行為、価格操作行為その他制限を与えるような行為をしてはならないほか、取引契約における強制的な条件などを付加してはなりません。
したがって、メーカーや元請会社における自社取引のチェックポイントは、自社が、この「原則2」の対象となるか否かになります。もし対象となる場合には、「原則1」よりも慎重に契約上の内容や表現をチェックする必要があります。
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競争法の原則3:経済集中(2018年競争法の第5章)
吸収合併、新設合併、企業買収、企業合弁などによって、事業者の市場に対する影響が大きくなることを経済集中といいます。
したがって、メーカーや元請会社における一般的な商取引では特に気にする必要はありません。この「原則3」は、合弁事業やM&Aにおけるチェックポイントとなります。
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競争法の原則4:不公正な競争行為(2018年競争法の第6章)
信義誠実、商業上や事業運営上の通例に反する行為で、他の事業者の合法的な権益に対して損害を与える又は与える可能性のある行為をいいます。次のような行為が該当します。
- 営業上の秘密情報を侵害する行為(不正アクセスや情報漏洩)
- 他の事業者の顧客や取引業者に対して脅迫や強制を行い、取引をしないよう又は停止するよう仕向ける行為
- 直接的であるか間接的であるかを問わず、他の事業者についての風説を流布し、その事業者の威信や財務状況、営業活動状況について悪影響を与える行為
- 直接的であるか間接的であるかを問わず、他の事業者についてその合法的な営業活動を妨害、阻止するような偽計を用いる行為
- 顧客の不正行為の扇動(虚偽情報の提供や錯誤の惹起、証明のできない誇大広告など)
- 原価を下回るほどの価格設定で価格破壊を行う行為
- その他の不公正な競争行為
この「原則4」は、秘密保持にかかる合意書(NDA)や契約上の条項、他の事業者への妨害行為を定めています。
したがって、メーカーや元請会社における一般的な商取引では、最低限、秘密保持にかかる契約上の条項をチェックすることになるでしょう。また、他の事業者への妨害行為を特定し「反社会的な行為」として条項をまとめるのも良いかもしれません。
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日本に「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」という法律があります。影響力のある事業者が取引を行う際に行ってはならないことを定めた法律で、公正取引委員会を中心に、わかりやすい資料が各種あります。
この下請法には、上記の「原則1」や「原則4」のような内容は、凡そ定められていて、ベトナムでは(明示的に)禁じられていない行為も禁止行為として定められています。例えば、抱き合わせ販売、バーター取引や無償協力の要請、受領拒否や報復措置などです。
したがって、上記の「原則4」における「その他の不公正な競争行為」を検討する際に、日本の下請法に抵触しないような契約条項をまとめていけば、ベトナム側のコンプライアンスは一定レベルで確保できると考えます。