いつもお読みいただきありがとうございます。2021年1月1日より施行される2020年企業法より、前回114号レターに続き第2弾です。
今回は、2名以上有限責任会社に新たに加わった意思決定方法およびデッドロック時の対処です。
==
2名以上有限責任会社における100%賛成による意思決定
- 100%賛成による意思決定というのは、もともと株式会社の株主総会に定められていた次のような規則です。「議決権付き株式総数の100%によって採決された株主総会の各種議決については、当該議決の採決手順や手続きについて規定通りでなかったとしても、適法であり直ちに効力を有するものとなる。」(2014年企業法及び2020年企業法の第148条2項で変更されていません。)
- 2020年企業法の第62条2項は、2名以上有限責任会社について、次のように新たに定めました。「定款資本総数の100%によって採決された社員総会の議決や決定については、当該議決や決定の採決手順や手続きについて規定通りでなかったとしても、適法であり直ちに効力を有するものとなる。」
これにより、合弁会社などにおける意思決定速度が増し、効率的な経営を図ることができるでしょう。
==
2名以上有限責任会社におけるデッドロック時又は紛争時の初動対応
2014年企業法においては、第63条で軽く触れられていましたが、2020年企業法の第62条3項では、少し加筆されました(太字部分)。
「社員や社員グループが、裁判所または仲裁機関に対して採決された議決や決定の取消し請求を行った場合、当該議決や決定は、裁判所または仲裁機関の判決が執行力を生じるまで、前項の規定に基づいて、引き続き施行効力を有する。但し、権限を有する機関の決定に基づき仮緊急処分(緊急保全処分)が適用された場合を除く。」
デッドロックの定義については議論を割愛させていただきますが、2名以上有限責任会社における社員同士(出資者同士または委任代表者同士)が社員総会その他で合意形成できず第三者機関にて事件化する場合、従来は、仮処分による救済措置がなく、会社運営に支障をきたしていたのだと推測されます。
- 例えば、日本側とベトナム側の合弁会社で、日本側はベトナム側の懈怠による責任を追及し、何らかの形の決断を社員総会で迫ったにかかわらず、ベトナム側は回答を行わないことや時間の無限使用が得策と考え、日本側の出方を見ては少しずつ対応するような、いわば「穴ぐら作戦」のような場合、日本側が原告として紛争提起しても、まったく埒があかなかったといったことが想像されます(あくまで例えです。必ずしも日本対ベトナムという構造の紛争ばかりではありませんので、誤解を生じるようなことがあればお詫び申し上げます)。
==
ベトナムの仮処分とは
- 2015年民事訴訟法の第111条や第114条、2010年仲裁法の第48条や第49条に定められている紛争時の救済措置になります(詳しくは別の機会とさせていただきます)。
- 弊社のみならず、私たち外国人または外資系企業は、例え弁護士や法律事務所であってもベトナムにおける訴訟の代理人にはなれませんが、ベトナムの有事の際における保全処分や仮処分は、日本のそれらに比べ、非常に使いにくく「遅い」ことは想像に難くありません。
- しかし、年々、遅々としてではありますが、今回のような仮処分の手順規程、判例の公開などは進んでいます(それでもこの先5年~10年レベルでは、大半の民事は「人治(法的措置前の交渉解決)」になると予想しています。
===================
25年合弁をやってきた日系会社様、数年前に弊社が合弁設立した日系会社様など、喧嘩別れに近いような案件に何度か業務対応させていただいています。
今回ご紹介した2名以上有限責任会社の規定変更などが、少しでも経営現場の良い方向に作用すればと考えています。