いつもお読みいただきありがとうございます。今回は、ベトナムで定められているM&A手法(スキーム)より、合併と吸収についての基本的な考え方と手順を紹介します。
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ベトナムで定められているM&Aスキーム
1、合併及び吸収
複数の会社の権利義務全てを1つの新設会社に承継し、権利義務を承継した複数の会社を消滅させる「合併(新設合併)」と、1つ又は複数の会社の権利義務全てを1つの既存会社に承継し、権利義務を承継した複数の会社を消滅させる「吸収(吸収合併)」があります。
※M&Aという言葉は、「Merger & Acquisition」(合併&買収)という英語から成っており、ベトナム企業法では、Mergerという語句は使われておらず、Acquisitionという語句は吸収という意味で使われているようです。
2、分割
1つの会社の権利義務全てを複数の新設会社に移転し、権利義務を移転した元の会社を消滅させる「消滅分割(新設分割)」と、1つの会社の権利義務の一部を1つ又は複数の既存会社に移転し、権利義務を移転した元の会社を存族させる「存続分割(吸収分割)」があります。
3、買収
株式や有限責任会社の出資持分を譲渡することによって行う「買収」と、第三者割当増資を行う「新株引受(増資引受)」があります。後者には、私募、公募があります。
※非公開案件では、これらを混同している案件を多数見ます。当局担当者、銀行担当者、弁護士事務所やコンサル会社などによっては、法令と実務の乖離が多く見られますので、注意が必要です。
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2014年企業法と2020年企業法での違い
- 合併(新設合併)又は吸収(吸収合併)時に、競争法(市場占有率など)に抵触してはならない旨が明記されました。以前は、競争法とは明記されておらず、市場占有率や競争法に関する当局への通知義務などが定められていましたが、これらは削除されました。
- 消滅分割(新設分割)時の新設会社での債務引受義務について追記されました。
※2020年企業法におけるM&A関連条項には大きな改定はありませんが、2020年投資法では比較的目立つ改定があります。ただ、不明瞭な点もあり、2020年投資法の細則を定める政令や通達が出たら、コメントさせていただく予定です。
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合併(新設合併)の手順
- 当事者間の合併契約書を作成します。本質的に出資者間又は株主間の合意書となり、合弁契約書に近いものとなるでしょう。同時に、定款についても合意形成します。
- 新設会社の法定代表者を決定し、機関設計に応じて、社員総会又は取締役会の会長、社長などを決定します。
- 債権者や労働者などに通知します(採択後15日以内)。
その後、新設会社の手続きで、IRC(投資ライセンス)やERC(企業登録証明書)に進みますが、消滅させる元の会社の最終税務(税務調査を経て税務当局の合意と税コードの抹消)とのタイミング調整が難しいため、税務当局と調整しながら手続き法務も進めることが必要となります(したがって、グループ内合併以外では、あまり使用されていません)。
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吸収(吸収合併)の手順
- 当事者間の吸収契約書を作成します。同時に、吸収引受会社の定款についても新たな草案を準備します。消滅会社の出資者や株主が吸収引受会社に参加する場合には、出資者間又は株主間の合意書も必要となるでしょう。
- その上で、債権者や労働者などに通知します(採択後15日以内)。
- 吸収引受会社のERC(企業登録証明書)を変更します。消滅させる元の会社の最終税務については、ERCの変更完了よりも先に行わなければならない事例もありますし、そうでないケースもあります。地域によって見解が異なるほか、当局によっても見解は異なるので、注意が必要です。
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合併や吸収のスキームに関連して、今まで対応させていただいたのは次のようなケースでしたが、これらの他にも使用できる場面がいろいろあると思います。気軽にご相談いただければ幸いです。
- 合弁会社又はBCCプロジェクトの活動をしてきたが、事業の拡張について相手方と合意が形成できず、新たに100%独資の会社を立ち上げたい、その際に、既存の事業から資産やリソースを譲渡したいが現物出資にはしたくない。
- 機能別の会社を複数設立してきたが、これらの持株会社(ホールディングス)を設立したい。その際に、不採算事業を整理したい。
- プロジェクトごとに別会社を立てて最大限の優遇税制を受けてきたが、これらを統合したい。
- 雇用予定のベトナム人が持っている会社を吸収したい。