マルチレベルマーケティング(MLM=連鎖販売取引)は、合法的なビジネスですが、その法務は非常に難易度が高いものです。日本、ベトナム、その他各国で法令は大きく異なり、ことベトナムにおいては2018年より非常に厳格になりました。
その背景には、ベトナムがMLMに適した市場であり、アムウェイ社やベトナムローカルのオリフレーム社を始め、成功した企業が続出し、伴って様々な問題が発生したことがあります。
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ベトナムのMLMライセンスにおける留意点(政令40/2018/ND-CP)
- 1 年間にメンバーに支払うボーナス総額が当該年度の連鎖販売活動売上の40%を超えてはなりません(第48条)。そして、これを商工省に対して証明する必要があります。したがって、一般的に、既存のボーナスプログラムをベトナム用に修正する必要があります。
- メンバーに対するボーナスの計算方法においては、メンバーの等級および称号に応じた手数料、ボーナス、その他の経済的便益を明確に規定しなければなりません(第43条)。特にスタート時のボーナスには規制があります。したがって、上記同様に、既存のボーナスプログラムをベトナム用に修正する必要があります。
- メンバー情報や取引情報の全てを管理するシステムを構築し、商工省が確認できるようにしなければなりません(第44条)。且つ、メンバーが自らのステータスなどを確認できるウェブシステムを構築し、こちらも商工省が確認できるようにしなければなりません(第45条)。
- 資本金100億ドン以上(第7条)、エスクロー金100億ドン以上(第50条)が必要となります。
- メンバーの居住地がある省市ごとに活動登録申請を行い、且つ省市ごとに連絡代表者を設置しなければなりません(第19条など)。これには、メンバー勧誘活動も含まれます。
- メンバーとなる者に対しては基本研修を行わねばならず、講師は有資格者である必要があります(第31条)。講師の資格は、自社の社員が取得することも可能ですが、資格取得セミナーは商工省の管轄下にあり、年に数回しか行われていません。
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MLMライセンス取得後の運営
- メンバーを広げたい省市をターゲットし、連絡先代表者との契約、活動登録、メンバー勧誘等のセミナー開催を行っていきます。
- 既に活動登録をした省市であってもメンバー勧誘等のセミナーは、その都度、申請を行う必要があります。
- 商品が化粧品やサプリメントである場合、製品適合公表や広告文章の登録などを適宜行う必要があります。
- したがって、商品管理や販売管理、メンバー勧誘活動の管理、ウェブシステム及びメンバー管理システムの管理、広告やマーケティング活動の管理など、事業の管理は多岐にわたります。できれば、ビジネス法務は内製化していく必要があります。
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MLMは、小売業の1種です。個人を代理店と見なし、販売網を構築していくビジネスモデルと言えるでしょう。商材は商品のみで、サービスは商材として認められません。医薬品や化学品、デジタル情報を内容とする商品も商材として認められません。
ベトナムでは、現在、化粧品やサプリメントが商材のトレンドですが、一昔前は、アムウェイ社が従来ながらの高品質な「鍋」などを商材として、子から親へのプレゼント市場を形成したと聞きます。
企業勤めよりも家族の「業」を手伝うスタイルが依然残るベトナムでは、独立独歩の自営業として収入形成していく願望を持っている人が多いことから、MLMは親和性が高かったのでしょう。商工省のデータによれば、MLMの従事者数は約80万人とされています。
しかし、一般に知られているように、MLMは様々な人間関係の確執を生む可能性があります。このことがしっかり理解浸透されないまま、MLM市場がブレークスルーし、2018年5月の規制強化に至ったと言われています。この規制強化によって、ベトナムのローカル社も含め、約9割の業界企業が新法に沿ったライセンスを取得できない状況に陥り、約1年半を経過した2019年11月より徐々に、新法に沿ったライセンスが発行されています。