いつもお読みいただきありがとうございます。今回は、営業権、いわゆる「のれん」の償却について紹介いたします。
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営業権とは何か
- 営業権とは、例えば、長年営業してきた店舗を、ネット上などの評価をそのままにして売却するとき、既に多くの顧客がある商品をそのブランド名ごと売却するときなどに、これらを総称して「営業権を譲渡する」などと言います。日本でもベトナムでも変わらない一般的なお話です。店舗や商品ブランドなどの売却は、有形資産だけではなく無形資産(顧客の評判など)も含まれますので、その無形資産部分を指して営業権という場合もあります。この場合は、正確には「のれん」「プレミアム」などという言葉になります。
- この無形資産は、知的財産法から見れば、商標、商号、地理的表示、営業秘密などの工業所有権が総合されたものになり、著作権も含まれるかもしれません。しかし、上記の例でいう「ネット上などの評価」「多くの顧客」などは知的財産権ではありませんので、この観点から無形資産を定義しきれるものではありません。
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バリュエーションにおける「のれん」の計上
- バリエーションとは、対象事業(店舗や商品ブランドなど)や対象会社(株式など)を売却(購入)するときにその売却金額(購入金額)を計算するために、対象事業や対象会社の価値査定を行うことです。前項の無形資産は、財務諸表上で明確に算出されているわけではありませんので、バリュエーションにおいて算出する必要があります。
- バリュエーションには大きく3種類のアプローチがあり、その1つである「アセットアプローチ(資産的観点からのアプローチ)」では、前述した無形資産を、簿価ではなく時価として算出します。しかし、この価額は現在時点での静態的価値ですので、連結決算や事業清算などに使われたとしても、売却(購入)時には使われません(売り手が納得しません)。したがって、ここに、売り手が引き続き活動した場合に将来的に得られたであろう一定の金額を試算して加えます。これが「のれん(プレミアム)」です。
- 一方で、マーケットやインカムからアプローチするバリュエーションにおいて「のれん(プレミアム)」の検討は相応しくありません。詳しくは本レターでは割愛させていただきます。
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ベトナムの会計税務上のポイント
ベトナムの会計法上では、固定資産としての条件に当てはまらない資産は有形無形を問わず、繰延償却の対象とするよう定めています(参照:173号レター)。その中で無形資産の一例として、次のような費目が繰延償却の対象として定められています。
法人設立費用、人材研修費用、法人設立前における広告費用、研究開発費用、引越費用、技術的文書・特許・技術移転ライセンス・商標・のれんの所有又は使用にかかる費用
この中で「のれん」とした日本語部分のベトナム語は、ベトナムの他の会計関連法令や公文書で用語が統一されていません。英語訳文でも用語は統一されていません。のれんを意味する「Goodwill」を使用していない文書が多いのですが、使用している文書もあります。いずれにしても、弊社としては、のれんと解するのが適切だと考えております。
したがって、のれんは、3年を超えない範囲で繰延償却を行うことになります。
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M&Aの業務において、今まで出会ってきた在ベトナム企業(在越の日系企業を含みます)の所有者の方々は、自らの手で育てた事業又は会社を高く売れると信じて疑わず、買い手側のアドバイザリーとしてついた弊社の算出した安値に憤慨された方も多くいらっしゃいました。
弊社では、必ず2種類のアプローチを使用し、それぞれの算出金額を比べた上で最終価格提示をします。その1つとしてアセットアプローチを使用した場合には、のれんの算出方法について、裁量性を回避するために、もう1種類のアプローチから算出された金額をベースにして提案を行います。
それでも、売り手市場というのでしょうか、「ベトナムが急成長しているのだから(債務その他のリスクがあったとしても)売り値は資本金の数倍となって当然である、のれんをもっと付けろ」的な環境認識が前提となっていて、説明や議論に時間を要し、買い手側が根負けするケースが見られます。