いつもお読みいただきありがとうございます。今回は、ベトナムへの赴任者ではなく、日越を行き来する双方居住者の個人所得税申告について考察します。
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日越租税協定(第4条2項)※原文まま
1の規定により双方の締約国の居住者に該当する個人については、次のとおりその地位を決定する。
(a)当該個人は、その私用する恒久的住居が存在する締約国の居住者とみなす。その私用する恒久的住居を双方の締約国内に有する場合には、当該個人は、その人的及び経済的関係がより密接な締約国(重要な利害関係の中心がある国)の居住者とみなす。
(b)その重要な利害関係の中心がある締約国を決定することができない場合又はその使用する恒久的施設をいずれの締約国内にも有しない場合には、当該個人は、その有する常用の住居が所在する締約国の居住者とみなす。
(c)その常用の住居を双方の締約国内に有する場合又はこれをいずれの締約国内にも有しない場合には、当該個人は、自己が国民である締約国の居住者とみなす。
(d)当該個人が双方の締約国の国民である場合又はいずれの締約国の国民でもない場合には、両締約国の権限のある当局は、合意により当該事案を解決する。
上記第4条2項は、あらゆるケースが想定されていると考えます。
日越租税協定の第1条では双方居住者が当該協定の対象であることが明記されていますので、この第4条2項は双方居住者の居住国判定の原則となり、大半のケースが本原則で解決されそうですが、実務的にそうではない現実があります。
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各種の論点
- ベトナムの個人所得税法上では、入国から連続した12か月または暦年(陽暦1月~12月)のうち183日以上ベトナムに滞在する個人や、183日以上の契約期間を有するアパートメントなど恒久的施設を有している場合などに居住者として判定されます(参照:118号レター、087号レター)。
- 日本の個人所得税法上では、住所登録を有していたり、12か月以上の居所を有している個人が居住者として判定されます(弊社認識の範囲です)。
- 日本もベトナムも、居住国にて全世界所得(国内所得および国外所得)申告することを定めています。
- 日本では、課税期間(暦年)の途中で海外へ転出した場合、(1年以上の海外赴任を前提としていれば)転出時を境に居住者/非居住者の判定が行われるため、課税期間の中に居住者としての期間と非居住者としての期間が共に存在します。
- ベトナムでは、118号レターに触れた通り、初回赴任時は赴任時より居住者として扱われますが、2回目以降の赴任にかかる課税期間は暦年となり、二重課税期間が発生し、税額控除などの手続きを取る必要が生じます。例えば、2020年7月より2回目のベトナム赴任を開始した場合、ベトナムでの個人所得税申告は2020年1月から行わなければならず、2020年1月から6月の日本で申告した個人所得税は、既に申告した税額としてベトナムにて控除申請を行わねばならず、大きな手間となります(※2014年9月より以前には、初回赴任時もベトナムでの課税期間は暦年とされ、日越租税協定との矛盾が見られました)。
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日本とベトナムは、租税協定があっても、日常的な実務と解釈では異なる部分があると思われます。租税協定の原則として、日本で支払った税額の控除手続きなど具体的な実務手順がなくとも最終的な救済措置はあると考えられますが、それなりの手間がかかります。
したがって、双方居住者となるようなケースでは、個人所得税申告の実務がより簡便で合理的になるように配慮し、自身の活動をコントロールした方がいいかもしれません。
以下、余談です。
筆者は、ベトナムに携わって14年になりますが、実は、一度もベトナムに居住したことはなく、年間で183日を超えたこともありません。1回の訪越で最長はおそらく20日程度だと思います。約1年半、アパートメントを借りていたことがあり、このときは、双方居住者となっていました。