ベトナム現地に駐在する日本人の個人所得税の課税可否を検討するにおいて、ベトナム内国法を確認することも重要ですが、日本国とベトナム国の二国間で締結されている二重課税回避を目的とした租税協定も確認することも重要でしょう。
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日越租税協定(第15条)※原文まま
一方の締約国の居住者がその勤務について取得する給料、賃金その他これらに類する報酬に対しては、勤務が他方の締約国内において行われない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。勤務が他方の締約国内において行われる場合には、当該勤務から生ずる報酬に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
前項の規定にかかわらず、一方の締約国の居住者が他方の締約国内において行う勤務について取得する報酬に対しては、次の(a)から(c)までに掲げることを条件として、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。
(a) 報酬の受領者が当該暦年を通じて合計183日を超えない期間当該他方の締約国内に滞在すること
(b) 報酬が当該他方の締約国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われるものであること
(c) 報酬が雇用者の当該他方の締約国内に有する恒久的施設又は固定的施設によって負担されるものではないこと
上記の規定にかかわらず、一方の締約国の企業が国際運輸に運用する船舶又は航空機内において行われる勤務に係る報酬に対しては、当該一方の締約国において租税を課することができる。
以上より、例えば、ベトナムに183日未満(非居住者)の駐在員がいる場合、この方がベトナムで受ける報酬のベトナムにおける個人所得税は免除されることになります。ただし、財務省通達156/2013/TT-BTCに定められた書式を用いて、個人所得税の減免申請を行う必要があります。
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留意点(財務省通達111/2013/TT-BTCの第1条における居住者判定)
居住者として判定される場合には以下のケースがあることに留意する必要があります。
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常住地を有する場合:常住地とは、公安省の所属当局が発行する仮居住カードを申請する際に記載される住所を指す。
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課税期間における183日以上の賃貸借契約書を有する場合:賃貸借契約は住宅に限らず、ホテル、ゲストハウス、モーテル、旅館、職場、オフィスなども含み、且つ当該個人が賃借したか雇用者が当該個人のために賃借したかに拠らない。
ただし、上記2番目の賃貸借契約書を有する場合にて、賃貸借契約書が183日以上であって、課税期間におけるベトナム滞在日数が183日未満である場合には、どこの国に居住しているかを証明できない場合のみ課税対象となるとあります。居住の証明には、居住国の居住証明書を使用するとあります。日本の場合は国税庁の居住者証明書や住民票が考えられます。
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今回のテーマは、2020年5月18日に日系企業向けに出された公文書を参照しました。その公文書では、ベトナム滞在日数が183日未満であっても183日以上の賃貸借契約書があれば課税対象となると結論付けており、「どこの国に居住しているかを証明できない場合」という条件について触れられていません。
ベトナムの良いところの一つは、法令解釈や手続き等の疑問点について公文書を出せば、論理的に返信をしてくれるところだと考えています。ただ、(回答をもらうための)手間も時間もかかることが多くなっています。