いつもお読みいただきありがとうございます。2021年1月1日より施行される2020年企業法より、114号レター及び126号レターに続き第3弾です。
今回は、利益配当についてです。ベトナムでは、有限責任会社に対しては「利益分配」、株式会社に対しては「利益配当」と呼んでいますので、そのように進めます。
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会社形態ごとの原則(企業法より)
1名有限責任会社(個人所有) | 1名有限責任会社(組織所有) | 2名以上有限責任会社 | 株式会社 |
個人である会社所有者は、納税義務や法令の規定に基づくその他の財政的義務を果たした後の会社の利益の使用について決定することができる(2020年企業法第76条および2014年企業法第75条)。 | 組織である会社所有者は、納税義務や法令の規定に基づくその他の財政的義務を果たした後の会社の利益の使用について決定することができる(2020年企業法第76条および2014年企業法第75条)。 | 社員総会が利益分配を決定することができる(2020年企業法第55条および2014年企業法第54条)。
納税義務や法令の規定に基づくその他の財政的義務を果たし、かつ、利益分配後に弁済期が到来する各債務やその他の財政的義務を十分に全額弁済する場合に限り、各社員(出資者)に対して利益を分配することができる(2020年企業法第69条)。 (2014年企業法第69条では、経営が黒字であることが条件とされていましたが、2020年企業法では語句が削除されました。) |
株主総会が利益配当を決定することができる。
普通株式に対する利益配当は、次の条件を満たす場合に可能となる。
優先株式に対する配当の支払いは、優先株式に個別に適用される状況によって実行される。 (以上、2020年企業法第135条および2014年企業法第132条) |
外国投資家による利益配当の受領や利益の海外への送金は、為替管理にかかる法令に基づいた口座を通じなければならない。ただし、資産その他の非現金による精算形式である場合を除く(2020年企業法第35条)。
(2014年企業法第36条では「外国投資家がベトナムにおいて開設した銀行口座を通じなければならない」とされていましたが修正されました。以前同様、「利益分配」について該当するのか定かではありませんが、実際には該当します。) |
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配当は、株主総会の年次総会が終わってより6か月以内に全額支払わねばならず、現金や会社の株式、または会社の定款に定めるその他の財産によって支払うことができる。現金で支払う場合は、ベトナムドンによらなければならない、かつ、法律の規定に基づく支払方法により支払う(2020年企業法第135条。2014年企業法第132条では、支払方法が小切手や振込など具体的に定められていましたが、法律の規定に基づく支払方法として包括されました)。 |
- 2020年企業法は、2014年企業法よりわかりやすくなり(恣意的解釈が生まれにくくなり)、実務に基づいた内容になっているのではないでしょうか。2014年企業法通りに定款文言を定めている場合などは、年内に修正しておく方が望ましいでしょう(定款の承認は社員総会や株主総会です)。
- 企業法によれば、分配利益や配当利益は「税引後利益」です。カウンターパートとなるベトナム企業などによっては、税引前利益として議論になる場合がありますが、明記されています。
- 為替管理にかかる法令に基づいた口座とは、DICA(直接投資口座・資本口座)を指していると解釈されるでしょう。
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外国投資家に対する海外送金規制(財務省通達186/2010/TT-BTC)
- 上記の企業法により、利益分配や利益配当は一般的に、累積損失を解消した後の黒字結果に対して発生します。一方で分配された利益や配当された(外国投資家に対する)利益を海外に送金する際にも同様の規制があります。
- 送金可能額は、以下の計算式より導き出された金額となります。
「監査済み財務諸表及び法人税確定申告書に基づく年度利益より分配や配当された金額」+「前年度からの利益剰余金その他の利益金額より分配や配当された金額」ー「ベトナムにおいて当該投資家が再投資のために使用した又は確約した金額」および「ベトナムにおいて当該投資家が事業または私用目的にて使用した金額」
- 送金タイミングは、監査済み財務諸表及び法人税確定申告書の当局受理後となります。したがって、暦年(1月~12月)を会計年度としている場合、3月末までに申請が終われば、4月より送金が可能となります。
- 送金実務としては、送金実行日の7営業日前までに、投資家ではなく企業側より、利益の海外送金にかかる通知書を管轄税務局に提出します。その後、銀行に、当該通知書、監査済み財務諸表及び法人税確定申告書、株主総会など承認機関の利益処分決定議事録を提出します。
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利益分配または利益配当にかかる税務
- 投資家が組織である場合、法人税については、免税となります(財務省通達78/2014/TT-BTCの第8条)。外国契約者税もかかりません。
- 投資家が個人である場合、個人所得税については、1名有限責任会社の場合には課税所得にならず(財務省通達92/2015/TT-BTCの第11条)、それ以外の場合には5%となります(財務省通達111/2013/TT-BTCの第10条など)。
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2名以上有限責任会社、株式会社などの合弁会社では、利益処分について合意形成ができないケースが多々あると思います。
企業法が変わるこのタイミングは、定款を見直す良いタイミングであり、ベトナムのカウンターパートにも言い出しやすい時期ではないでしょうか。