いつもお読みいただきありがとうございます。2020年6月に国会可決され、2021年1月1日より施行される2020年投資法は、投資法の刷新のみならず、数多くの他の法律の改正を含んでいます。住宅法、不動産事業法、環境保護法を始めとし、法人税法の改正もあります。
今回は、その中より投資優遇とスタートアップ企業の投資ライセンス(IRC)免除について紹介します。弊社056号レターも合わせてご参照ください。
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2020年投資法に定められた投資優遇について
- 2020年投資法では、優遇の形式として従来通りの「法人税優遇」「関税優遇」「土地使用料など地代にかかる優遇」に加えて、「減価償却費用や損金費用の繰り上げ算入」が定められました(第15条1項)。
- 優遇の対象について、障碍者を使用するプロジェクト、技術移転に関する特定のプロジェクト、科学技術企業として認定される企業に係る特定のプロジェクト、革新的なスタートアップ企業に係る特定のプロジェクト、中小企業支援法に定められた特定のプロジェクト(2020年5月15日より施行されている政令37/2020/ND-CPにおける4つの分野)、住宅法に定められる特定の住宅建設プロジェクトなど大幅に追記されました。おおよそ、財務省や商工省の通達で2014年~2016年に定められてきた優遇範囲と変わりありませんが、投資法に明記されていなかった部分が追記されたものと見受けます。
- 優遇の業種分野として、科学技術に係る製造、大学教育、医療機器の生産、バリューチェーンの形成または参加となる製品やサービスなどが加わり、一方で、繊維や皮革分野における生産、特定の医薬品が削除されました(第16条)。優遇の業種分野は、2014年投資法の細則として定められた政令118/2015/ND-CPにて「投資優遇特別分野」と「投資優遇分野」として規定されてきましたが、2020年投資法では投資優遇特別分野が個別条項として定められました(第20条)。
- 優遇の条件(●年間免税・●年間減税など)について、投資家自らが優遇条件を確定し、税申告を行う又は別途必要となる手続きを行うと定められました(第17条)。これまでも、省市によって投資ライセンス(IRC)に記載するかしないかレギュレーションが分かれ、IRCに記載される場合でも「15年間減税、且つ4年間免税および9年間減税(4免9減、15年)」が仔細に記載される場合もあれば(同じ省市であっても)そうでない場合もありましたが、今後は一切記載されなくなるものと考えられます。
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スタートアップ企業の投資ライセンス(IRC)免除
- スタートアップ企業とは、ベトナムの中小企業支援法において「知的財産や技術、新しいビジネスモデルのアイデアを実現するために設立され、急成長する可能性のある中小企業」と定義され、中小企業支援法の支援を受けるための条件として、中小企業判定基準(弊社056号レター参照)を満たしている必要があるほか、新規事業登録証明書発行より5年を経過しておらず且つ未上場である必要があります。
- 2020年投資法では、スタートアップ企業を設立する場合の投資ライセンス(IRC)が不要とされました(第22条)。同時に、中小企業支援法の第18条2項に定義されるベンチャーキャピタルの設立においてもIRCは不要とされました。
これにより、スタートアップ企業の設立は、通常の外資系法人の設立とはレギュレーションが異なることとなりました。スタートアップ企業への投資を定める政令38/2018/ND-CPには、IRCなしでどのように法人設立するかは定められていませんので、2020年投資法が施行される2021年1月1日までに新たな政令が公布されることでしょう。
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2020年投資法は、非常に多くの着目点があります。
- 国家資本に関する投資や官民パートナーシップによる投資について、より明確に区別されました。公共投資は、2020年1月1日より施行されている公共投資法39/2019/QH14に定められ、PPPについては、2020年投資法と同じく2020年6月に国会可決され、2021年1月1日より施行されるPPP法64/2020/QH14に定められています。
- また、業種分野(Business Line)が明確化され、従来通りの「条件付き投資分野」「投資禁止分野」という枠組みは維持されましたが、これらの選定や活動について、投資家自身において責任を負う旨が強調されました。投資禁止分野には、草案通り、債権回収サービス等が加わっています。
- WTOなど国際条約や協定と投資法(内国法)との関係性が明記され、2種類のネガティブリストを確認する法務実務のフローが示されたことから、法務初心者であっても、投資を行いたい業種分野の外資可否または条件の検討がしやすくなったものと見られます。
この他にも、環境保護関連、M&A関連など、様々な変更点や着目点がありますので、またの機会に触れさせていただきます。