いつもお読みいただきありがとうございます。日本の親会社が海外子会社より「何らかのフィー(ロイヤリティー)」を得る場合、皆様の企業ではどのようにされていますでしょうか。
配当収入ではなく、事業活動全般からのフィーです。
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子会社からのロイヤリティーの種類
- まず、わかりやすいのがフランチャイズ形態でしょうか。小売業や飲食業、サービス業などを想像してください。何らかのブランドやビジネスモデルを提供することによって対価(ロイヤリティー)を得るというものです。ベトナムでは、フランチャイズ形態は当局に登録する必要があります。
- 次に、フランチャイズには至らずとも、商標や著作物を使用許諾することによって対価(ロイヤリティー)を得るという形態があります。ライセンシー形態、ライセンス使用許諾形態とでも呼びましょうか。商標や著作物は当局に登録する必要があります。
- 最後に、特に有形の貸与物などはないが、ノウハウのような無形の貸与物をもって対価(ロイヤリティー)を得るという形態です。
上記の1つ目、2つ目では、当局に登録していない場合、登録をしていないことの違反に加えて、ロイヤリティーなどの費用が税務上で否認されるリスクとなります。
上記の3つ目は、当局に登録しなければならないというものではなく、当局に登録する「術」も明確でないと考えるケースが多いのではないでしょうか。大手企業様では(各国で)普通に実施していると思いますが、ことベトナムでは当局に登録する「術」があり、それが少なからず移転価格税制などにおける税務上の根拠となり得ることをご存知でしょうか。
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技術移転法
- ベトナム独自の法律として、技術移転法というものがあります(他国にもあるのかもしれませんが、弊社が日本・ベトナム周辺諸国程度しか存じていません)。
- ベトナム経済発展のために、外資を誘致し、付加価値を生み出す有形固定資産をベトナム国内に定着させ、同様に、海外技術を移転してベトナム国内の無形資産を構築するため、知的財産法とは分離されて制定されました。
- 2018年7月1日に施行された2017年改正法の第31条によれば、技術移転は科学技術に係る行政当局に登録義務があるとされ、同法第2条2項には、「技術移転とは、資源を製品と変えるためのソリューション、プロセス、ノウハウであり、機器や設備を伴うか否かは問わない」と定義されています。
- また、同法第2条1項には、「ノウハウとは、研究、製造、取引より収集又は獲得できる情報であり、技術や技術製品の品質や競争力を決定するものである。ノウハウには、技術ノウハウ及び技術的ノウハウが含まれる」と定義されています。
したがって、技術移転法に定義されたノウハウに基づいてロイヤリティーを得るという建付けで「ノウハウアグリーメント」を作成し、これを技術移転として当局へ登録を行い、当該登録を根拠として親子間での支払いを行うことが、上記した「術」でございます。
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各論
上記の「術」は、弊社が独自に考えましたので(同様に考える他社もいらっしゃるかもしれません)、あくまで仮説(税務対策)です。グローバル大手企業も含め、実際に何社も実践してきています。
ただ、2018年7月以降で可能となった「術」であり、法務と国際税務の双方を検討する必要があることから、弁護士事務所だけでも会計事務所だけでも一気通貫した業務は難しく、あまり多くの事例はないのではと推測します(中央省庁への問い合わせ時は、ほぼ事例がないと回答があり、ハノイ市やホーチミン市への問い合わせ時も、事例は多くないとの回答でした)。
仮説の根拠を、いくつか下記します。
- ロイヤリティーは、フランチャイズ形態、その他のライセンシー形態によって発生する場合、基本的に知的財産法を根拠とします。しかし、ノウハウによって発生する場合、ノウハウは技術移転法を根拠とし、知的財産法の対象範囲に含まれることもありますが、必ずしもそうではありません。
- 税務当局は、損金計上、税優遇などの適用可否を判断する際に、ロイヤリティーの源泉となる根拠(算定方法含む)を求めると、一般的に考えられます。
- 2017年改正技術移転法の第27条には、技術移転にかかるロイヤルティー価格は当事者間の合意によって決定され、どのような形式でも問題ないとされています。しかしながら、関連者間取引である場合には、税法上の規定に従って監査や申請を行わなければならないとあります。これは、関連者間取引の税務について定めた政令20/2017/ND-CP及び同政令の細則を定めた財務省通達41/2017/TT-BTCと考えられます。
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移転価格文書の免除とベンチマーキング分析
- 本レターでは、移転価格文書の免除規定とベンチマーキング分析の詳細は割愛いたしますが、移転価格文書とは、マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書から成り、ローカルファイルを作成する際に重要とされるのがベンチマーキング分析となります。
- マスターファイルとローカルファイルが免除されるケース(移転価格文書が免除されるケース)では、ベンチマーキング分析も免除される考えられますが、ロイヤリティーについては、当該取引合意文書の実存性と取引実体との整合性が問われます(政令20/2017/ND-CPの第6条1項a号)。
- 税務当局の実際としては、高額なロイヤリティーや長期的なロイヤリティーを支払っている場合で、その理由や効果が不明瞭である場合、ロイヤリティーを支払っているにもかかわらず利益率が低い場合、十分な証憑が揃っていない場合などは、ロイヤリティーを否認するか又はロイヤリティーの源泉となる研究開発費等の合計額を提出させることにより、適正レベルを算出する方針を出しています。また、企業秘として開示されない部分がある場合には当該ロイヤリティーを否認する方針としているようです。
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以上より、ベトナム子会社より「ノウハウをベースとしたロイヤリティー」を取得したい場合には、当局(科学技術省または省市レベルの科学技術局)の承認を得られるレベルのノウハウアグリーメントを作成し、署名締結後90日以内に申請業務を行うことによって、将来的なロイヤリティー否認リスクに備えるという「術」が良いと、ご提案します。
ご用命の際は、ぜひ弊社にご連絡ください。
(参考過去記事:弊社31号レター)