いつもお読みいただきありがとうございます。2021年1月に施行される2019年労働法より、就業規則に新たに定めなければならないことについて紹介いたします。この10月、11月あたりに2019年労働法に紐づく政令や通達も公布されると思いますので、そちらに詳しく規定された場合には、本レターを後に更新いたします。
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就業規則に定めなければならない内容(2019年労働法の第118条)
- 勤務時間及び休憩時間
- 職場における秩序
- 労働安全及び衛生
- 職場におけるセクシャルハラスメント回避、防止、処分手順、手続き
- 雇用者の資産、営業上・技術上の秘密、知的財産権の保護
- 労働契約上の業務とは異なる業務に一時的に異動させるケース
- 被雇用者の労働規律違反行為、処分形式
- 物的賠償責任
- 労働規律処分権限を有する者
この中で現行法と比べて新しい項目は、4のセクハラ規定、6の一時的異動規定、9の規律処分権限者規定です。
どれも現時点で就業規則に加えても問題なく、実際に草案についてハノイ市の地域組合と話し合いましたが問題はありませんでした。例えば、4のセクハラ規定については、日本での規定同様にセクハラの定義を行い、処分形式は一般的に解雇処分にするのだと考えます(2019年労働法の第125条2項により)。したがって、7の労働規律違反行為、処分形式に繋がっていきます。
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就業規則の公布や登録
2012年労働法(現行法)と変わった部分は以下の2点です。
- 就業規則の登録先が、省市レベル(Province level)の労働機関から郡県レベル(District level)の労働機関に委託可能となったこと。
- 支店や駐在員事務所、事業拠点(工場や店舗など)やユニットを他の省市に有する企業が就業規則の登録を行った場合、他の省市レベルの労働機関にも就業規則を送付すること。
1つ目は、対応の迅速化が期待されますが、一方で、当局側担当の質の低下もあり得ることであり、担当者の法解釈や労働環境解釈によっては、就業規則に対して多くの赤入れをさせられるのではと危惧します。
2つ目の他の省市レベルでの送付義務は、電子送付などが期待されます。
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就業規則にかかるその他のこと
2019年労働法の第121条に「10名未満の被雇用者である場合に就業規則を書面施行する場合には、雇用者の決定によって効力を発する。」と付記されました。また、第118条では、人数に限らず就業規則を作成しなければならなくなりました(書面とは書かれていませんが)。
- 現行法では、10名未満であっても就業規則を登録しないと効力が発しないように読み取れたり、就業規則に有効でない(と被雇用者が解釈する)部分があって、かつ登録していない場合、就業規則全体を否認できるような読み方もできます。もちろん、専門家から見ればそのようなことはないのですが、(自信をもって?無知ゆえに?)自己解釈を信じる被雇用者がいる場合、紛争に移行したとしても雇用者に得になることは、あまりありません。
- ある事例で、被雇用者が現行法を恣意的に解釈し、就業規則に違反する行為を行いながら、これについて過失も認めず責任を負わないことがありました。その被雇用者は法務担当者として働いており、自身の法解釈には自信を持ち、雇用者が10名未満企業で外資系企業であることから、地域の組合と協力して労働規律処分を行うことに時間がかかることを見通して、一方的に退職、ホーチミン市の家を引き払い実家に戻って、その後連絡が取れず、というような事態となりました。
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一般論として、「法律に違反していなければいい」という若者が増えているのではないでしょうか。昨今の日本はわかりませんので、ベトナムでのお話です。
筆者が2010年にベトナムで会社を設立したとき、お腹がいたいので今日は会社を休みます、髪を切りに行きたいので今日は会社を休みます、ゆうべからお酒が抜けないので今日は会社を休みます・・・直接的、間接的に、いろいろな方に出会いました。そのころは、飲食業中心でしたので、キッチンの床を掃除したモップのほつれをキッチンの骨切り包丁で切ったり、モップを鑑賞魚の水槽で洗ったり、様々なバリエーションがありました。
当時は、怒りはなく、単に不思議でたまらず、なぜルールに従わないのか、仕事には時間というルールがあり、道具には用途があるなど言いながら、通訳を通して彼らの考えを聞いていました。総じて、ルールは万能ではなく、時と場合によって守れないと考えているようでした。その後、「恣意的解釈」という言葉を知りました。
現在の弊社スタッフは高度な人材ばかりだと思います。それでもたまに、想定外の認識や法解釈が出てきます。悪気がないのはわかりますが、就業規則や労働契約書に定めてあることをしっかり理解していないケース、個別の意見を持っているケースが、一般的です。
就業規則を細かくわかりやすく作成すれば、日本人とベトナム人の間の羅針盤のようなものになると思います。そして、日本企業の皆様に、法律とルールの違い、できれば、マナーの重要性を加えた人材や文化の育成を実現してほしいと願います。
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2019年労働法関連レター:
023号レター(2019年労働法より雇用形態について)
026号レター(2019年労働法より雇用契約の従業員からの一方的解除について)